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教育ファームで子どもが変わる―心を揺さぶるこの一手大公開!

 教育ファーム推進セミナー 開催報告(2008年8月3日)

 

満席の会場
満席の会場

 夏の暑さ厳しい8/3(日)、東京国際フォーラムホールD7にて『教育ファーム推進セミナー』」が開催されました。テーマは「教育ファームで子どもが変わる心を揺さぶるこの一手大公開!」と題し、内山節さんによる基調講演と、4つの実践報告が披露されました。

 今回のセミナーは、<地域に根ざした教育ファーム>にするための具体的なしかけ方を、実践者の報告を通して探っていくものです。
 モデル実証地区での活動が始まり、実践の手ごたえを日々感じる一方で、子どもたちの心を動かすには何が必要なのか、試行錯誤する時期でもあります。そこで各地の個性的な実践報告をきくことで、「これからの活動で何ができるか?」のヒントを見つけようと、セミナーには200名近い方の参加をいただきました。
 報告の後には討論の時間も設けられ、満員の会場は熱気あふれたものとなりました。

第I部 基調講演
教育に<むらの時間>を取り戻そう
――学びの「場」としての地域の暮らし再発見

講演者:立教大学大学院教授・哲学者 内山節 氏

内山節さん
内山節さん
動画(ダイジェスト版、10分24秒)はこちら

 昨今、何のための教育かわからなくなるような事件が、巷間にあふれています。「国家のための人材」「経済のための人材」が色あせていくなかで、大多数の人が共有できるような目的が、見出しにくい時代になったということでもあります。時代が壁にぶつかったとき有効なのは「過去に学びなおし、新しいものを創生すること」です。

 1960年代を境に急速に衰退してしまったものに、「地域社会の教育」があります。それは高橋敏(※)のいう<非文字の教育>のことで、伝統的なむらでは日々の会話・技術の伝承を通じ、先輩から後輩へとその地域で暮らす知恵を、子どもたち自身が「非文字」のかたちで引き継いできたのです。
 しかし今の経済システムの中では、ここ=地域で生きていく喜びを語れる人が少なくなり、地域が自信を喪失するなかで、本来一体となっていた地域と教育が切り離されてしまいました。

 また死生観の大きな変化もあります。昔、亡くなった人の魂は近場の森へ帰っていくもので、自然を祀ることが先祖を祀ることでした。だから田んぼや山は、ご先祖様であり神様でもあったのです。ところが明治時代以降、わが家の「(血縁の)ご先祖様」だけを祀る習慣になったために、死は個人的な、こわいものとなり、地域が永遠を感じられる場所ではなくなってしまいました。

 教育ファームは、地域の暮らしを再発見できる学びの「場」です。地域が自信をもち、教育の場としての力を取り戻す、そんな役割が期待されます。

(※)高橋敏:国立歴史民俗博物館名誉教授。専門は近世教育・社会史、アウトロー研究。『江戸の教育力』(ちくま新書)、『国定忠治』(岩波新書)など、自らの足で歩いた資料をもとに近世の知られざる実像に光を当てている。

第II部 実践報告
実践報告1:〈ふるさと〉を都会へと運ぶ大好評の「びっくり箱」

講演者:JA山形おきたま青年部添川支部 高橋勝 氏

高橋勝さん
高橋勝さん
動画(ダイジェスト版、4分20秒)はこちら
内山節さん
今回は、野菜を貯蔵する氷室からとってきた「雪のびっくり箱」を持参

 JA山形おきたま飯豊(いいで)地区青年部添川支部(部員21名)では、以前から、地元の小学生たちに食農教育活動をおこなってきました。しかし、料理教室なのに食べ残しの山が出るというショッキングな出来事をきっかけに、「自分たちの活動が自己満足に終わっているのでは?」という疑問を持ちはじめたといいます。農村の豊かな文化を伝える方法は何かと熟考の末、たどり着いたのが、東京の小学校へ、出前稲作体験授業をおこなうこと。
 青年部の部員からは「どうやって体験校をさがすんだ!」と猛反発を受けたものの、都心の小学校100校に案内文を送ったところ、なんと4校から引き合いがありました。

  ただの体験におわらせないために工夫したのは、「宿題」と「びっくり箱」。

●印象に残る「宿題」
 事前に「よい種もみの選び方は?」など、子どもたちに宿題をだして考えてもらってから、実演指導をおこないます。体験の現場で、子どもたちの感動がふくらみました。

●農村の豊かさを知る「びっくり箱」
 飯豊山の雪、ザリガニ、タニシ、イナゴなどの田んぼの生きもの、飯豊町とれるものをつめたびっくり箱の中身を、目をつむった子どもたちにさわってもらいます。泥水をこわごわかきまわして「え、なにこれ、ザリガニだ!」と興奮する子ども、「イナゴがかむ…」と半べそになる子ども、「雪って、(冷たいを通り越して)痛い」という子ども。
 自分の体の感覚を通じ、自然を味わってもらいながら、体験への意識を継続させるしかけです。

 会場でも本日の「びっくり箱」が披露され、手で目かくしをした子どもが、箱の中の雪に触れて大よろこびする一幕もありました。

実践報告2:収穫したお米の販売体験で「食べる側」から「育てる側」へ

講演者:上越市立高志小学校 舘岡真一 氏

舘岡真一さん
舘岡真一さん
動画(ダイジェスト版、5分35秒)はこちら

 給食の残食に心を痛めた舘岡さんが考えたのが、子どもたちに自分たちのお米を作らせる体験でした。種モミから育て、夏の暑い時期に草取りをがんばって、たわわに実る稲を収穫をできた子どもたちは、「自分たちはすごいことをしたんだ」と感じます。
 でもそれだけでは終わらせなかったのが、今回の実践です。

●「食べる側から育てる側へ」立てた理由
 文化祭にきたお客さんに、自分たちのお米を、おにぎりにして販売することになりました。しかも、「売れ残ったらすべて処分する」という条件もつけて。子どもたちは、 「自分たちががんばって育てたお米は捨てたくない!」と必死に考えます。そこで初めて、「食べる側から育てる側」の気持ちを慮ることができました。

●地域の人とふれあい、「味わう」ことに気づく
 お客さんを招び500個のおにぎりを販売するため、手作りのパンフレットをつくり、必死に地域の人に声をかけました。「自分で米を作っているからいらない」と言う人、今まで挨拶しかしたことなかったのに話を聞いてくれた人、さまざまな地域の人にふれ、「ものを売る難しさ/地域の人のあたたかさ」を知ることができました。
 また、学校給食用にお米をおさめている農家の方、給食室の調理員さんへのインタビューを通じて、自分たちは給食のお米を「味わって」いなかったことに気がつきます。だから今まで、平気で食べ物を残していたのだとも。

 地域の人と出会いながら自分の足と頭で考え、食べる人・育てる人、両方の立場に立つことができた実践でした。

コメント・全体討論1

司会:阿波市立市場小学校 藤本勇二 氏/討論者:高橋勝 氏、舘岡真一 氏

 まずコメンテーターの藤本勇二さんより、2つの実践へのコメントがありました。
「教育ファームとは、地域とつながる・つなげるために、場の教育力を活かすこと。子どもたちの心のスイッチを入れるのに、高橋さんは<びっくり箱>を、舘岡さんは<生産者の視点に立たせる条件づけ>をされていました。まさに、“言葉と体験を一致させる実践”だったと思います。
 これを特別な事例とするのではなく、お二人から何を学べるか討論したいと思います」 と話をされ、質疑応答が始まりました。

●教育ファームは、地域と人をつなぐ・つなげる
 「学校で販売するのに、子どもがお金をもうけるなんてと、抵抗はなかったか」との質問に、舘岡さんは「販売体験は以前からの実績があったので、地域の理解があり問題はありませんでした。でも、教師は儲けることが目的ではなく、米にまつわる問題に気づいてもらい生産者への理解を深めるという、実践の目的がブレないようにしないといけないと考えています」と答えていました。
 また、高橋さんには「遠距離の体験をサポートする制度がありましたか?」との質問が。それには、「行政を通じて、東京都在住の県人会の協力をいただきました」と答えていました。

 最後に高橋さんは、「ありのままの生産者の姿を知っていただくことが、地域と人の信頼関係を築くチャンスだと思っています」とお話をされ、舘岡さんは「そういう人に子どもたちが出会えるようにするのが、われわれの仕事です」と、学校現場の役割についてお話をされました。 
 藤本さんは「地域(むら)が自信を取り戻すことができるのが、教育ファームです。そしてその価値をたくさんの人に伝える・つなげるための実践者が、高橋さんのような農家の方々、翻訳をしていくのが、舘岡さんのような先生たちなのだと思います」とまとめられました。

藤本勇二一さん
藤本勇二さん
動画(ダイジェスト版、3分45秒)はこちら
高橋勝さん、舘岡真一さん
高橋勝さん、舘岡真一さん

実践報告3:家畜と作物の絆から考える<いのちの学び>を島の子どもたちへ

講演者:山口県 祝島未来航海プロジェクト実行委員会長 氏本長一 氏

氏本長一さん
氏本長一さん
動画(ダイジェスト版、5分12秒)はこちら

 山口県の祝島(人口500人、小学生2名)は、日本各地の離島の例にもれず、人口減少や高齢化に悩み、農水産業の衰退が心配されています。しかし「神舞(かんまい)」という独自の文化をもち、島民の強い絆に支えられた暮らしが、今も続いている地域でもあります。
 そこで島の豊かな自然をいかし、島民の自活力を裏づける持続的な農業するため、地域循環型農業(有畜複合農業)の試みがなされています。

●循環の輪は「豚」がつなぐ
 豚が鼻で土を耕す「鼻耕(びこう)」の能力に注目し、耕作放棄地に豚を飼うことにしました。家畜を飼わなくなって久しかった祝島に、豚が戻ってきたのです。
 豚が耕した畑で芋などを育て、糞を肥料とし、とれた芋は豚にもお礼といておすそ分けします。やがて大きく育った豚は「祝島ブランド」の肉として出荷もします。豚は人も含めたすべてのいのちをつなぐ「輪」の役割をもつのです。

●豚田兵カレー
 島の子どもたちには、毎日のように豚にふれ、その体温ややわらかさを肌で感じてもらっています。初めは見るだけで固まっていた子どもたちも、しっかりその体を抱きしめては、豚のいる生活にすっかり慣れました。
 育った豚はお肉にし、「豚田兵カレー」に料理して、子どもたちみんなでいただきました。豚肉も、野菜も米も、すべて祝島産。これは、島の活力を島民自身に知ってもらうために大切なことです。

 最後に氏本さんは、次の世代の子どもたちに第1次産業のすばらしさを伝えることは、大人として、生産者として、社会に対する当然の責務と考えています、と結ばれました。

実践報告4:羽釜の飯炊きで子どもの目が輝く! だから教育ファームはやめられない

講演者:埼玉県 ファーム・インさぎ山代表 萩原さとみ 氏

萩原さとみさん
萩原さとみさん
動画(ダイジェスト版、4分51秒)はこちら

 「今日は羽釜を抱えて電車に乗ってきました」と壇上の大きな釜をにふれる萩原さん。萩原さんの主催する<ファーム・インさぎ山>では、農のもつ「教育力」「福祉力」「環境力」を伝える、さまざまな試みがなされています。そのひとつが、羽釜を使った飯炊き体験。

●羽釜の飯炊き体験は、総合学習
 羽釜でご飯を炊く体験では、「米にあった水の量を計算する算数の力」「火おこしの技術」「むらなく炊けるのは対流が起こるからと気づく理科の力」など、総合的な学習の力を身につけることができるといいます。

 また、「はじめちょろちょろ中ぱっぱ、と今では使われなくなった言葉(ごはんを上手に炊くコツ)」が活きるのも、この釜で炊くからこそ。 炊けたご飯をおにぎりにするとき、塩むすびなんて味がないからイヤと言っていた子どもが、「(ごはんが美味しいから)塩の味もじゃまだね!」 といったのが印象的でした、と語る萩原さん。

●ネットワークは幅広く
 20代の若者から、萩原さんの97歳になる義理のお母様まで、幅広い年齢層の人が、この体験を支えています。また、地元のホテルなどで料理講習会を開くなどして、地域のネットワーク、企業と農家とのネットワークづくりにも大きな力を果たしています。

コメント・全体討論2

司会:NPO法人霧島食育研究会代表、管理栄養士 千葉しのぶ 氏/討論者:氏本長一 氏、萩原さとみ 氏

 まずコメンテーターの千葉さんより、2つの実践へのコメントがありました。ご自身も霧島独自の食育活動を続けている千葉さんは、開口一番「わたしに足りなかったのは<家畜>だったとわかりました!」と、豚が持続性のある農業をつなぐ「輪」になって命が循環するシステムの妙に、感心されました。

 また、萩原さんの実践では、子どもを大きく受け止める人柄の暖かさに加え、米を食べることが地域を守ることにつながっていることも指摘されました。

●教育ファームをきっかけに、地域の実践力をやしなう
 質疑応答では「なぜ豚を選んだのですか?」「羽釜の下に使うかまどにはどんなものを?」という、ほかの地域での実践に直結するノウハウに関する質問が飛びました。

 氏本さんは以前、北海道の宗谷岬で肉牛を飼う生産者だったそうです。2007年春に祝島にUターンされ、大きな生き物を運び出す設備がない離島でも飼える家畜として、豚を選んだ経緯をお話されました。さらに「農林水産業は実は、人との出会いが豊かです。自分(農家)の側が意識してオープンでいれば、教育ファームのような取組、あるいは商品を通してなど、ネットワークが無限に広がる可能性があります」と答えました。実際に祝島産の豚は、島内で消費されるだけでなく、東京・西麻布のフレンチレストランに卸すなど、地域の外へ広がる実践になっています。

 また「かまどはどこでも使えて運びやすい、簡易式のものを使っています」と、萩原さん。

 最後に千葉さんは、自分の実践とも結びつけながら「スーパーに食べ物が並ぶのを見た子どもが、(氏本さんの実践にあったような)にふれた時の暖かさや、一緒に世話をしてくれたおじさんやおばさんのことものちのち思いだせる体験を、教育ファームで子どもたちに味わってもらいたいと思っています」と結ばれました。

千葉しのぶさん
千葉しのぶさん
動画(ダイジェスト版、6分58秒)はこちら
氏本長一さん、萩原さとみさん
氏本長一さん、萩原さとみさん

会場の声

〔基調講演から〕
・「地域で暮らす人間を育てる」という言葉がとても印象に残った(20代女性・学生)
・「地域に自信をとり戻すこと」が大切なのだと感じた(20代女性・学生)
・教育のポジションを再認識した(40代女性・行政団体職員)
・地域とのつながりの重要性を認識しました(50代男性・教員)
・もの事の見方、捉え方、本質を見抜く力を教わりました(50代男性・農林漁業者)

〔実践報告・全体討論から〕
・農業の可能性と食農教育の可能性を感じることができました(50男性・教員)
・私の取り組んでいる教育ファームは、まだまだ体験のための体験だなあと反省しきりです(40代女性・自営業)
・今後の教育ファームについて、自分の役割がなにかわかった気がする(50代女性・行政職員)
・現場の話でたいへん参考になりました。地元で少しずつ実践していきたいと思います(40代女性・農林漁業者)


文責:事務局

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